『テロリストのパラソル』 藤原伊織

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江戸川乱歩賞とは、日本を代表する推理作家である、
江戸川乱歩の寄付を基金として、日本推理作家協会が、
探偵小説を奨励するために創設された、文学賞のことだ。


50年を超える、長い歴史を持つ江戸川乱歩賞の中で、
唯一、乱歩賞と直木賞を同時受賞したのが、
藤原伊織が1995年に著した、『テロリストのパラソル』である。


新宿を舞台にして、いわゆる、”団塊の世代”の心情を描いたこの作品は、
江戸川乱歩賞史上、最大のヒット作となった。


物語は過去を隠して生きる、アル中のバーテンダーが、
爆弾テロ事件に巻き込まれるところから始まる。


テロの犠牲者の中には、音信不通だった、
大学時代の友人が含まれていた。


バーテンダーは、容疑者として追われながらも事件の真相に迫っていく――。


過去に屈折した経験を持つ主人公、おしゃれな会話、
個性的な生活様式、望んでもいないのにつきまとってくる美女、
こういった構図は、ハードボイルドの定番と言える。


1960年代後半の、学生運動の季節を描いたことに関しては、
多くの賛否両論があったが、何よりも文章が上手く、
小説の世界に、知らず知らずの内に引き込まれる。


新人賞を受賞する作品は、必ずしも文章が上手いというものではなく、
アイデアや特徴のある世界を描くことで、評価されることがあるが、
この作品が評価されたのは、女性上位の時代にあって、
登場人物を通して伝えられる、”男の美学”が、
世代を超えて共感されたからに、他ならない。


人生とは何なのか、どう生きるべきか。


受賞から20年近く経つ現代社会においても、
その普遍的な問いかけは、今も読む人の心を打つだろう。





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