『奇想、天を動かす』 島田荘司

mystery...1


1981年に、『占星術殺人事件』で颯爽とデビューした島田荘司は、
探偵がトリックを解明する、いわゆる、”本格もの”を得意とする作家である。


特に、江戸川乱歩賞の最終選考に残りながらも、
落選した、『占星術殺人事件』で使用されたトリックは、
多くの推理小説マニアの喝采を浴びた。


後進の育成にも積極的で、出身地である広島県福山市が主催する、
『ばらのまち福山ミステリー文学新人賞』の、代表選考委員を務めている。


その島田荘司が、”本格もの”と、”社会派”ミステリーの融合に、
挑戦した傑作が1989年に出版された、『奇想、天を動かす』である。


物語は、浅草で浮浪者が品物の消費税分を請求されたのに腹を立て、
店の主婦をナイフで刺殺するところから始まる。


氏名すら名乗らず、完全黙秘を貫く浮浪者を見て、
裏に何かあると感じた刑事は、捜査を開始する。


懸命な捜査の結果、ついに過去数十年に及ぶ、
哀しい犯罪の構図に辿り着く――。


長らく本格ミステリが抱えていた弱点として、
トリックや犯罪動機のまどろこしさが、挙げられる。


推理小説が純文学などに比べて、一段低い所に置かれていたのも、
そうしたことが理由の一つだった。


犯罪の動機を重視した、松本清張登場以降、
動機と社会を結び付ける、社会派ミステリが隆盛を極めた。


こうした時代を経て、大がかりなトリックと犯罪の動機、
社会性を結び付けた本作が誕生したのである。


今日なお残る社会問題を意識させてくれるこのミステリーは、
時代を超えて、今なお輝き続けていると言えるだろう。





Leave a Comment